現地調査報告 落石の発生に関わる樹木 -木を視て,落石を診る-

(一般財団法人)災害科学研究所 現地調査報告

落石の発生に関わる樹木 -木を視て,落石を診る-

大阪大学大学院工学研究科 常田賢一

山間部の道路沿いの斜面では、常時あるいは降雨時、地震時に落石の発生が危惧されており、様々な対策がとられてきている。しかし、最近でも、2016 年4 月の熊本地震では、落石、岩盤崩落が発生して通行が阻害され、同年5 月には島根県邑南町戸河内地内で落石が通行中の車両を直撃し、死傷者が出る事故が発生している。

このような状況において、落石に関わる斜面の現地調査の機会を得て、落石の発生要因あるいは対策を考えるに当たり、新たな視点、特に、樹木との関わりの必要性を強く感じたことから、本文を取りまとめている。その主旨は、“木を視ることにより、落石をさらにしっかり診るができるので、有効な対応に繋がる”ということである。

本文は、こちらからダウンロードして下さい。

 要 約

落石の現地調査から、落石の発生要因に樹木とその根系が深く関わっていることに着目したが、落石との関わりに関する知見および取り扱い方法は、以下の通り、要約できる。

1) 地域性の高い落石の発生特性、原因、対策などを考える場合、“基本かつ共通事項”と“固有かつ特異事項”に分類して考えるとよいが、樹木は両方に関係する。

2) 自然岩の経年劣化、風化による弱体化は長時間をかけて進行する必然とも言える事象であるが、加えて植物的作用として樹木の根系の成長が付加され、亀裂の拡大による風化の促進に加えて、亀裂の拡大・深化が進行することに注意が必要である。

3) 樹木による露岩などの不安定化、落石の発生までの時間は、露岩などの亀裂の発達状態と樹木およびその根系の成長度に関係するので、それらの要因から、将来の不安定化、落石の危険度を推測することが望ましい。なお、節理や流れ盤などでは、岩塊の剥離、落下の容易性により、落石の不安定性が高いので留意する。

4) 落石対策便覧では、風による樹木の振動に言及しているが、転石と樹木との関係あるいは浮石の助長に関する具体的な取り扱いの記述は見られない。

5) 平成8 年度道路防災点検の評価項目“表層の状況”の要因である“表面の被覆状況”では、植生については、木本の斜面の安定度は高いという姿勢であるが、これは表土層が厚い斜面では該当するものの、落石に関わる露岩などの斜面では、根系による浮石の助長および風の影響のマイナス面を考慮することが必要である。そのため、上記の4)の便覧の関係を含めて、樹木の影響を精査して、評価の位置付け(重み付けなど)および対策(伐採工など)を検討することが必要である。

6) 現地調査の範囲から、樹木に関わる落石の発生形態は図-1 で考えられ、押し出し型、剥離Ⅰ型、剥離Ⅱ型、一体転動型の4 つの形態に分類できる。

7) 樹木の影響を考慮した対策では、(1) 樹木と根系の経時変化の予測法、(2)点検間隔の設定法・点検法、(3) 伐開・除根の方法、(4) 安定度評価における樹木・根系の影響の反映法が検討課題である。

8) 落石に関わる露岩・転石・浮石の安定度・不安定度は、現在の状態だけでなく、経年による変化も合わせて評価し、現時点の対策を考えることが有効である。また、経年変化については、樹木・根系の成長を考慮した点検間隔、点検方法により、適時の点検を実施し、見逃さないようにする。さらに、対策後もその効果の発現、持続性について、点検によるフォローを行う。

9) 本文では、4 つの評価項目(岩塊と樹木の距離、樹木の胸高直径、樹木の岩塊の被覆状態、岩塊の亀裂状態)に基づいた評価点による影響度の評価方法を提起し、併せて評価基準を示した、今後のデータの蓄積により見直しなどの対応が必要である。

10) ロープネット伏工や接着工による予防工の設計、施工では、存置した樹木の成長により、剥離、落石に繋がるので、必要に応じて伐開・除根し、将来の落石に繋がる不安定化を抑制することが必要である。なお、接着工では、モルタルと岩塊の接着面の接着性とその耐久性に注意が必要である。

11) 沢地形や緩傾斜の斜面では、豪雨時、集水域からの流水により、堆積土砂、転石、基岩の流出に至ることがあるので、落石の対策に際しては、斜面崩壊および土石流にも注意が必要である。