日本経済新聞「私の履歴書」から

H28.4.30 福澤 武(三菱地所名誉顧問)
老舗の理念や歴史に共通するのは、まずはお客様に良い物、良いサービスの提供を目指すことである。それを実現するために、従業員を大切にして従業員の価値を高める。そのうえで生まれた利益から株主配当を出していく。それこそ老舗の精神である。

H27.10.6 葛西敬之(JR東海名誉会長)
1959年4月・・・私は手を挙げ、発言した。「安保改定阻止という前に、安保条約とはどういうものなのか、日本の安全保障はどうあるべきなのか。まずその議論をした方がいい」・・・このときの議長の反応は忘れられない。あきらかに侮蔑とわかる表情を浮かべ、「君は随分遅れているね」・・・「遅れている」のひと言ですまされ、討論会は終わった。
戦後になって言論の自由が確立されたといわれるが、果たしてそうだろうか。一度流ができてしまうと、多くの人が異なる意見は言いにくいと感じ、口を閉じてしまう。それは戦争の前もいまも、変わっていないように思う。

H27.6.29 松本 紘(理化学研究所理事長 元 京都大学総長)
日本人はもっと議論、対話のコミュニケーション能力を高めるべきだと考えている。私はこれを顎の力・顎(がく)力と呼び、学力、額力(前頭葉の力、人の気持ちを感じ取り思いやる能力)、楽力(何事も楽しめる能力)と合わせ、「人間の力は四つのガクリョクからなる」と言ってきた。社会で成功する人はこの四(し)ガクの力が優れているように思う。

H27.2.24 重久吉弘(日揮グループ代表)
「スピーク・アップ(Speak up)」は私が常に社員に実行を求めていることのひとつだ。意味は「思い切って話しかけろ」とでも言ったらいいだろうか。日本人は真面目だが「沈黙は金」という発想が強く、言葉のコミュニケーションより以心伝心のような相互理解を重視する。これは国際舞台では「わかりにくい国民」とみなされ、不利に作用することが多い。
H27.2.25 世界を見渡すとエンジニアリングの技術の伝承に問題が起きかけており、不安を覚えていたからだ。「エネルギーと環境がよくコインの裏表と言われるが、エンジニアリングでは技術の維持・進歩と人材の育成こそコインの裏表の関係になっている」

H26.11.11 坂根正弘(コマツ相談役)
私の好きな言葉に「知行合一(ちこうごういつ)」という中国の思想家、王陽明の言葉がある。「知ること」と「行うこと」は実は同じことで、行動や実践を通じて身につくのが本当の知識であり、逆にアタマの中にあっても、それが仕事や生活で役立たないのであれば、真に知っているとはいえない、という意味だ。

H26.8.8 森本公誠(東大寺長老)
実はこのような考え方は、古代では単に個人のレベルに止まるものではなく、国家や万民の場合にも当てはまるものだった。つまり国家といえども釈尊から見れば何らかの罪過を犯しており、それが国家の安定を損ない、万民を不幸に陥れる。したがって国家が安泰であるためには、国家の犯す罪過を誰かが代わって懺悔し、その功徳によって万民の幸福は得られるのだと。

H26.3.6 岡村 正(東芝相談役)
町井徹郎[ 東大ラグビー部先輩 ]さんの「各自はプランを作って練習に励め」の言葉は私の人生のキーワードになった。チームの戦略の中で自分に不足している技術、体力を補うために、一人ひとりが考えて練習しろ、の意味だ。

H26.2.28 市川猿翁(三代目 猿之助)
詩人ルイ・アラゴンのいう「教えるとは共に希望を語ること。学ぶとは真実を胸に刻むこと」という精神を伝え得たならば、うれしい。

H26.2.25 市川猿翁(三代目 猿之助)
仏文学者の桑原武夫先生から、次のような言葉をいただいたことがある。
「人間は四十代後半になったら、自分の力を弟子なり後進なりに分けてあげなければいけない。人を育てるにはエネルギーが要る。老齢になった後に名誉職のような形で養成するのではだめだ。力の充実している時期に後進を養成しなければ人は育たない」